公開セミネール 2025 記録「セミネール断章」
量子論的精神分析 Ⅱ
Quantum Theoretical Psychoanalysis
理論と実践

2025年1月講義
講義:藤田博史(精神分析医)


セミネール断章 2025年1月12日講義より

第1回第1講:人工知能が量子論的精神分析を実践できない理由(2024年の続き)


 
 精神科の診療をAI(人工知能)にまかせることが出来るかという問題について考えてみましょう。AIにできるのは対象物の性質をセンサーで捉えることです。たとえば、自動運転技術において、光(可視光線以外の光も含む)と音(超音波を含む)のセンサーが活用されていることは周知の事実です。自動運転技術を精神科診療へ転用することが可能だとしたら、どのような機能を付加したり、モディファイすれば良いのでしょうか。ここでわたしが問題にしたいのは、自動運転技術と精神科診療技術の決定的な違いが、量子情報理論における量子もつれ quantum entanglement の視点が精神科診療技術に導入される必要があるということです。つまり、具象化された画像や音声のみではなく、いわゆる言語外の領域の情報交換の技術の開発が必要だということです。

 端的に言うと、脳はひとつの量子状態を保持しており、治療現場ではクライアントと治療者相互の量子状態が対峙しています。更に厳密に言うなら、クライアント全体の量子状態と治療者全体の量子状態が対峙しているわけです。つまり、AIにとっての課題は、これらの量子状態間で生じる量子もつれ(量子テレポーテーション quantum teleportation、超高密度符号化 superdens coding)を取り込んで情報処理に組み込めるかどうかです。

人と人との間では量子もつれが起こり易いようにみえます。虫の知らせ、直感、霊感などがあります。端的に言うなら「生命同士のもつれ」なのです。物理学者ロジャー・ペンローズは、脳の神経細胞のなかにある微小管 microtubule が特定の波動に関係していることを想定しています。つまり、筒状の細胞内装置が量子もつれに関与しているのではないかと考えるわけです。この装置が格納されている細胞の一番重要な特徴は水 H2Oを含んでいるということです。人工知能と生物の大きな違いはH2Oの有無です。そしてH2Oのなかには電解質(Na+、K+、Ca2+、Cl-、Mg2+、HCO3-、PO43-、SO42-)が含まれているということです。このことが非常に重要なのです。人工知能にとってH2Oは、冷却水を除けば、縁がないどころかむしろ有害です。つまりAIを支えている「メカ」は水に対して非常に弱いという性質を持っている。これが重要です。