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公開セミネール 2015 記録「セミネール断章」
「オールフラット理論」-ホログラフィック精神分析入門
2015年1月講義
講義:藤田博史(精神分析医)

セミネール断章 2015年1月10日講義より


講義の流れ〜第1回講義(3時間)の内容の流れを項目に分けて箇条書きにしました。今回、「セミネール断章」で取り上げているのは、水色の部分です〜


第1講:「オールフラット理論、ホログラフィック精神分析とはなにか?」

ホログラフィック原理について→重力という謎→Basic Informations →ハイデガーとストーリー→メルロ=ポンティと事物の世界→フロイトと自分のなかを探すこと→第一の局所論と第二の局所論→欲動とは何か→ストーリーテラーとしてのフロイト→ラカンの数式と暗示→ラカン理論と解釈の余地→ラカンの症状、フロイトの症状→ラカン原理主義→mathème、数学素→重要なのはBIBasic Informations と時空化→ホログラフィック化と幻影→プロジェクション・マッピングと脳→ホログラフィック装置としての脳→ホログラフィック精神分析とは?→BIへの到達は可能なのか→思弁の領域からブレインへ→宇宙には波と振動数しかない→逆フーリエ変換は可能か?→ブラックホールの特異点→超弦理論→時空間の入れ子構造→universe ではなくmultiverse → トラウマというストーリーメーキング→PTSDと脳科学的変化→トラウマという比喩→レギュレートする力→向精神薬と脳機能の変容→スキゾフレニアと転移→薬を与えること→新海先生の添え木療法→賦活再燃療法→「申し訳ありませんでした」の意味→夢分析の必要性→夢の想起→現実という夢の分析→夢のコントロール→出遇い損ねという形式→画家が描き損ねたもの



Basic Informations と時空化

 フロイトもラカンも、詰まるところはすでに時空化された領域内で、観察と内省に基づいて思考を展開しているに過ぎず、先ほどからの話の連続で言うと、時空化される以前の Basic Informations(基本情報、以下BIと略) の次元に関しては無知であり続けているわけです。そのような次元は既に時空化された領域の外部にあるのでわからないのです。したがって、フロイトもラカンも、既に時空化された世界のなかで、何らかの関係性や理論を見いだそうと腐心していたわけです。
 現代物理学がホログラフィックな思考法を導入するまでは、引力についてうまく説明できなかったのと同様に、精神分析もまたホログラフィックな思考法を導入しない限り、エントロピーが減少するような生命現象のプロセスや欲動の説明は不可能だと考えられます。ですから、欲動論に立脚する精神分析においても、解明すべきは、このBIなのです。
 図で書いてみましょう。これが点で、これが平面だから、次元が一つ上がっていますね。つまりこの図で言うと一次元が二次元になっているわけです。  
 このBIは現代宇宙物理学、宇宙論で言えば二次元です。ただこの関係を平面であるホワイトボードに上手く描くことはできません。そのうちにホログラフィク・ホワイトボードみたいなものができればうまく描けるようになるのでしょうけれど(笑)、一応これで描いてみると、次元が一つ上がっていますが、こちらから見ると次元が一つ下がっている。この単純な関係が実は非常に重要なのです。つまりわたしたちの時空を創り出しているBIは二次元情報なのです。
 便宜的な描画法ですが、二次元を1枚の板のように描いて、三次元を立方体のように描いてみます。そしてここがBIですね。これが時空化されるわけです。


セミネール断章図2.pdfセミネール断章図.pdf


ホログラフィック化と幻影

 ホログラフィックな視点の導入によって明らかになってくるのは、わたしたちが作り出している知の総体が、実は、既に時空化されたこの箱のなかの法則のみに従う限定的な体系を構成しているということなのです。先ほどの図で言うと、このなかに様々な事象があるわけです。既に時空化され具象化されたこの世界のなかで、わたしたちは様々な質や量を「実感」しているわけですが、このBIから見ると、すべては、誤解を恐れずにいうと、幻影なのです。つまりホログラフィック化されたBIなのです。
 「先生、そんなこと言ったって、触れるじゃないですか、抵抗があるじゃないですか、これ、ものがあるじゃないですか」と言われるかもしれませんが、例えば夢のなかでは、実際に色々なものに触れることができるし、夢のなかで車に轢かれたりもする。つまり夢はホログラフィック化された幻影のひとつなのですけれども、われわれが現実、こういう風に覚醒して体験しているという世界も実は、この宇宙のBIから眺めると幻影なのです。
 人間の創造的な活動というものは、すべてこのなかで生起しています。このなかにはあらゆる「具体的な」ものがある。質とか量とか法則とか因果とか重力とか、あるいは欲動とか欲望、喜怒哀楽、等々、いろいろなものが、わたしたちの実生活を豊かなものにしています。
 と同時に、それらはわたしたちの実生活のなかに立ち現れて、わたしたちの目を欺いている、というか、そういうものがすべて幻影になかに含まれている。この全体像を理解するには、物理学的な、数学的な想像力が必要です。たとえば、わたしの声が皆さんの耳に届いており、同時に声の質のようなものを感じていますね。しかしよく考えてみると、この宇宙空間のなかに「声」という「質」は存在しない。そこには物理的な振動のみがある。その振動が鼓膜を震わせ、そして鼓膜から耳小骨を通じて聴神経に振動が運ばれ、神経細胞で生じる電気現象を通じて振動情報が脳に運ばれ、脳のなかで声という質を創り出しているわけです。ですから、実際の宇宙空間は無音なんです。脳が振動を音という質に変換してわたしたちの「知覚」を形作っているわけです。

プロジェクション・マッピングと脳

 このことは聴覚領域に限らず視覚領域においても同様です。わたしたちには色が見えていますが、純粋な物理世界には色という質はありません。振動の異なる光が、網膜に到達して、ある限られた振動数の範囲内で、視細胞で神経刺激に変換され、脳に運ばれ、そこで色という質が創られているわけですね。そしてそれを脳の内部からではなく、身体の外部から聞こえてくる、というような形で投影されているわけです。今流行りのプロジェクション・マッピングのようなものです。こう言って良ければ、脳は高度なプロジェクション・マッピング装置なのです。知覚情報のなかに意識情報を重ね合わせている。
 プロジェクション・マッピングは皆さんご存じのように、たとえば、東京駅の壁面に映写機で別の画像を映すことで東京駅に様々な効果を与えることができる。雪が降っていたり、窓が開閉したり、等々。あるいはディズニーランドのシンデレラ城でもプロジェクション・マッピングをおこなっていますね。それと同じようなことを脳がおこなっているわけです。
 つまりわたしたちは、外部から与えられた無加工で生(なま)の知覚情報の上に内部からの意識を投影(合成)して、一種のプロジェクション・マッピングをおこなっているわけです。本来異なるシステムである知覚と意識が、ここで分かちがたく結びついてしまうのです。このような合成された時空を創り出している脳の作用こそが、二次元情報である知覚ー記憶を時空化するホログラフィック作用というわけなのです。

ホログラフィック装置としての脳

 今お話ししたプロジェクション・マッピングという譬えは、実は脳に大変失礼な話で、わたしたちの脳はもっと巧みで高度に機能する変換装置です。わたしたちが今ここで認識していると信じている世界の総体が、身体も外部も含めて、すでに脳のホログラフィック機能によって映し出されている幻影なのです。
 たとえば手を机の上に置くとそこに机を感じますよね。これはプロジェクション・マッピングと同様に、感覚を外部に措定して、そこへ意識を投影している。しかしながら、すべては脳のなかで生じている。
 ここで知覚の特徴に触れておくと、知覚というのは逆流しないのですね。知覚で生成した神経信号は神経繊維を通じて脳の方まで運ばれる。殆どの知覚情報がまずは嗅内皮質 entorhinal cortex に運ばれますが、そこから歯状回 Dentate Gyrus を通って海馬 hippocampus へ運ばれる。海馬で複雑な処理を受けながら、海馬支脚 subiculum を経て再び嗅内皮質へと戻ってくる。こういうクローズド・サーキットを形作っています。しかもこの流れは一方通行なのです。このクローズド・サーキットから、随時、大脳の新皮質へ様々な記憶の分配がおこなわれます。つまり、大脳新皮質というのは、大ざっぱな言い方をすると、パソコンの外付けハードディスクみたいなものです。
 重要なのは、意識は知覚神経を逆流して生じているわけではない、ということです。知覚神経は逆流できません。しかし、知覚へ意識が上手く重ね合わされているので、ここで触っているように感じる。戦争で脚を失った人がつま先がかゆいと言ったりする幻影肢という現象があります。つまりわたしたちの身体図式そのものが一つのプロジェクション・マッピングのような形で作られているわけです。
 このように、知覚と意識の関係について考えるとき、BIがホログラフィック化されているのだということを念頭に置いておくことが重要です。

ホログラフィック精神分析とは?

 この一年をかけて皆さんに説明をしてゆきたいと考えている「ホログラフィック精神分析」という考え方は、従来型の精神分析が、すでに時空化された世界のなかで生起している事象の関係性についての「想像的な語り部(ストーリーテラー)」だとすれば、ホログラフィック精神分析は、既に時空化されたこの世界から、遡って、BIの次元にどのようにして辿り着くことができるか、そのような行為は臨床的に可能なのか、可能だとしたら如何なる方法によってか、ということの話なのです。ですから名前こそ精神分析ですが、、実はその時空化されている精神そのものの平面情報を探る行為であり、精神というホログラフが映写されているその元のフィルム情報ともいうべき次元に至る行為なのです。さらに、その元の情報に至って、この情報に何らかの操作を加えることができれば、ここから時空化の複雑な歪み(様々な精神症状)に変化を与えることができるかもしれない。
 たとえばスキゾフレニア。今では統合失調症などという怪しげな名称が流通していますが、スキゾフレニア治療のための研究に携わる場合、わたしたちは必然的にわたしたちが生きる世界内の病気として処理しようと考えるわけです。つまり既に時空化された世界内で、こういう特徴がある、こういう症状がある、脳のなかでこんなことが起こっているかもしれない、といった調子ですべて時空化された幻影としての世界のなかで解決しようとしている。実はそうではなく、わたしたちが目を向けなければならないのは、ベーシックな二次元情報が時空化される時に何らかの齟齬が起こっているのではないか、という次元なのです。
 つまり時空化の過程、ホログラフィック化の異常、ホログラフィック化をおこなう脳回路の異常、あるいは知覚と意識の重ね合わせの不具合、というふうに考えるのです。これがホログラフィック精神分析の、精神疾患全般に対するスタンスです。そしてそれは脳科学とリンクする。つまりホログラフィック化装置としての脳機能の異常が、どこでどのように生じているのかということの解明へとリンクするのです。
 つまりフロイト以来の精神分析が放棄していた、脳科学、神経科学とのコラボレーションが再び可能になるのです。従来型の精神分析が、脳科学や、臨床精神医学から遊離した思弁の領域だったのに対し、ホログラフィック精神分析は、より総合的に、脳科学的に、数理科学的に、脳の機能を一つのホログラフィック装置として探求してゆく糸口を与えてくれるのです。
 そして、そのホログラフィック化装置の核になる部分はおそらく海馬です。そのなかでも、CA2(アンモン角 Cornet d'Ammon2番)の部分に、わたしの推測では、記憶という二次元情報を時空化する積分的な機能が働いているはずです。アンモン角2番における時空化の作用の異常、この時空化とは、入力情報と出力情報を照合し、調整する作業です。ですから、一方通行の回路である以上、照合し、積分し、時空化させるためには何回も回らないといけないのです。一回転するだけでは駄目なのです。この回転によってフィードバックによる情報の修正や改変が起こる。このような調整が機能するためには、情報が何度も回転しなければならないのですが、おそらく CA2 を通過する時にうまく制御されないのではないか、とわたしは考えています。