⭐️図解 基礎からの精神分析理論⭐️
基礎編 〜フロイト/ラカン理論を藤田理論から読み解く〜
Leçon6 象徴界の構造とアブジェクシオン(2)




榊山裕子



先回の基礎編Leçon5「象徴界の構造とアブジェクシオン(1)」
では「象徴界の全体図」を以下の図を用いて示した。
そして象徴界が
Φ(象徴的ファルス)=第1番目のシニフィアン(S)=真理

A(大文字の他者)=二番目以降のシニフィアン(S
からなることを説明した。





また、上記の「象徴界の全体図」における
第三項(象徴的ファルス Φ)が
上方に排除された上方排除であるとするならば


下方に排除される下方排除において排除されるのは
「ーφ moins petit phi」
(想像的ファルスの欠如の心像、子にとっての鏡像、母の場所に欠如するファルス)であり
この下方排除は「アブジェクシオン abjection」
と呼ばれることを示した。





このアブジェクシオンを、幻想の式($a)から説明したのが
次の図式である。



まず
母子未分あるいは主客未分の状態が
Sa
として想定される。


しかし「母の介入」により両者が分極する。
言語を獲得し「象徴界に女性として刻印されている」
母と呼ばれる女性の欲望は
精神分析においては
「自らの場所に欠如するファルスを求める形で構造化されている」
と考えられている。


そして
「母の欲望と鏡の機能によって想像界という情念の双数関係」
(φ↔︎ーφ)
が現出し、
愛と憎しみが、目まぐるしく入れ替わる状況を経て、
φがーφを「棄却=アブジェクテ abjecter 」しようとする
「アブジェクシオン abjection」 が起こる。


S……(φ↔︎-φ)……a


このアブジェクシオンによって、象徴的ファルス=Φの介入、
すなわち「原抑圧」が作動する。


abjection(アブジェクシオン)
S……(φ⇨⇨⇨φ)……a


  ↓←Φ

さらにA=S2=「第2番目以降のシニフィアン」が
ΦS1=「第1番目のシニフィアン」に連鎖することによって、
主体は象徴界から抹消され斜線を引かれる。


S ーーーΦーーーーφーーー a

    ↓ ←  A




$ ——— Φ ——— A —— -φ ——— a

以後主体は、S→S(Φ→A)という連鎖を通して間接的にしか対象a を希求してゆくことができない。主体は a を求めてΦ→Aという象徴の連鎖を構築し、AをΦの隠喩として構造化する。こうしてΦの隠喩を受けた精神という「動的構造」が、$ aというファンタスムの磁場のなかで生成する。(「構造の病」『人間という症候』)



ΦとAは象徴界、-φは想像界、$a は現実界の境域にある。


さて
「幻想の式」から導き出した図式を
先述の円錐形の図にあてはめると
次のような図が得られる。





下方排除の外側には a が、上方排除の外側には $
それぞれ触知不可能な現実界に位置している。
すなわち
Φの先には戻ることができない斜線を引かれた主体である$
ーφの更に先には触知不可視な対象としての対象aがある。

下方排除としての「アブジェクシオン」が強くなされればそれだけ
上方排除としての象徴的去勢も強力になされる。


このアブジェクシオンが充分に働かないと最初のシニフィアン(S1)=Φ
がきちんと取り込まれない。すなわち象徴的去勢が不完全になる。
その場合、S1すなわち象徴的ファルス=Φが第三項になることができず
代わりに想像的ファルス=φが仮の第三項の役割を果たすことがある。
これを「象徴的去勢」に対して「想像的去勢」と呼ぶ。
以下の図はこの「想像的去勢」を表している。


 これは構造的な前精神病状態であり、臨床的にはドイッチェ夫人のいう as if personality, もしくは分裂性人格といった形で現われる。(「アブジェクシオンを超えて」『人間という症候』)

この仮の第三項である想像的ファルス=φが
何らかの理由で失われる事態は
構造そのものの崩壊を招く。
その状態を表したのが次の図である。
これは「去勢解除」「精神病の発病」の状態である。






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応用編




「幻想の式」から得られた上記の図式は
『人間という症候』(1993)に収められているが
近年の講義では
これとよく似ているが
部分的に違う次のような図式が用いられているので
参考までにここにご紹介しておくことにしたい。







2016.10