⭐️図解 基礎からの精神分析理論⭐️
基礎編 〜フロイト/ラカン理論を藤田理論から読み解く〜
Leçon2 ファンタスム(幻想)の構造 その1




榊山裕子



Lecon1では最初に次のように述べた。
「最初に覚えておくべきはファンタスム(幻想)の式である」


またこのファタスムの式は$ a で表される
ことを示した。



この $ a は「われわれがそれと認識できない領域」にある。
その領域のことを精神分析では「現実界 le réel 」と呼ぶ。


◇は「永遠に到達できない不可能性」をあらわしている。
◇は「永遠に到達できない印」である。
つまりこの式は「斜線を引かれた主体」である$
対象a は永遠に出会えないことを表している。



今回はこの式の◇の部分を分解してみよう。


ポワンソンの中身はまず次のように書くことができる。



◇は「S1とS」の連鎖の部分である。



「S」「S」とは何か?


$ の S は主体 sujet の S であったが
「SとS」の S はシニフィアン signifiant の S である。
signifiant はフランス語で「能記、記号表現、シニフィアン」
などと訳されている。


「シニフィアン」le signifiant はソシュールの言語学にのいて
フランス語のsignifier(意味する)という動詞の現在分詞から作られた名詞である。
同じ動詞の過去分詞から作られた名詞「シニフィエ」le signifiéという
用語とともに、記号 le signe を形成するとされる。
ソシュールはシニフィエとシニフィアンは不可分であると考えたが
ラカンの精神分析においては
その結びつきは解体される。





Sとは?


まずSはフランス語で「エスアン」と読まれ
「第1番目のシニフィアン」「単独のシニフィアン」と訳され、


le premier signfiant
le signifiant primaire
le signifiant primondiale
もしくは
le signfiant unaire


などと記される。

このSは、わかりやすく言うと
最初に身体のなかに取り込まれた言葉のことである。
より厳密にいうと
最初に身体に取り込まれた音素もしくは記号のことである。
そしてより正確にいうと
「最初に取り込まれたシニフィアン」のことである。


ソシュールのシニフィアンとは異なる意味をもつラカンの精神分析における
シニフィアンの意味については次のレッスンで説明する。




Sとは?


S2はフランス語で「エスドゥー」と読まれ
「第2番目のシニフィアン」もしくは「対のシニフィアン」と訳され、


le signifiant secondaire
もしくは
le signifiant binaire


などと記される。


この第2番目のシニフィアンは、第1番目のシニフィアンに対して、
2番目のみならず2番目以降のシニフィアンの特質を示している。
つまり「第2番目のシニフィアン」le signifiant secondaire
は「第2番目以降のシニフィアン」
のことである。


それを次のようなシニフィアン列として表記することもできる。


S−S−S−S-S5・・・・・Sn・・・


これは生まれ落ちた子供が言葉の獲得をはじめるに際して
最初のシニフィアンを掴んだあと
次々とシニフィアンを掴み続けることを示している。


なお上記のSとSに挟まれたS2は第2番目のシニフィアンを表わすが


$ ーSーSa


の場合のSは「第2番目以降のシニフィアン」を表わす。



またこの Sは先述のように
le signifiant binaire
とも書かれ、この場合は「対のシニフィアン」と訳され、
「(唯一)単独のシニフィアン」
le signifiant unaire
と対比される。

最初のシニフィアンと2番目のシニフィアンの間に
抑圧の棒が置かれていると想定する。
2番目以降のシニフィアンは対を作れる「対のシニフィアン」だが
最初のシニフィアンだけは対を作れない
「単独のシニフィアン」である。


「単独のシニフィアン」は
抑圧の棒の下に格納されてしまっているので
意識上に登ることができない。

すなわち一番目のシニフィアンだけは例外となる。

「言葉を話す」ことによって「欲動」を「欲望の運動」として永続させている「話す主体 le sujet parlant」は、永遠に到達し得ない対象を抱えてそのファンタスムを構造化している。このファンタスムjとは、斜線を引かれて象徴界から抹殺された主体($)が、永遠に失われてしまった愛の対象(a)との一体化を目指して、シニフィアンを連続的に掴み続けてゆく運動(S→S)として構造化されている。
 象徴的去勢(シニフィアンによる死の刻印)を受け、 S(第一番目のシニフィアン)→S(第二番目のシニフィアン)という連鎖のなかに再生された主体は、すでに「生の主体 le sujet brut 」ではなく、象徴の(法 le Loi)に従って生きる「斜線を引かれた主体($) le sujet barre」である。象徴の世界に踏み込んでしまった主体は、生き延びてゆくために自らに姿を与えてくれるシニフィアンを掴み続けなければならない。つまり「生き延びてゆくためには、シニフィアンによって殺害され続けなければならない」という主体の生存 le survie に関する逆説がここにある。(藤田博史「サディズムの病理」『性倒錯の構造』より)



またこのSとSは次のように書き換えることもできる。





Φ
 フランス語で grand phi と書き
「大文字のファルス」もしくは「象徴的ファルス」と訳される
そして、Φ=Sである。

 これは大文字です。グラン・フィー grand phi つまり象徴的ファルスです。 ―φ が想像的ファルスの欠如である のに対して、Φ は象徴的ファルスを表わしています。つまりこれは主体が出遭うシニフィアン、論理的に最初のシニ フィアンです。実は、主体はこの最初のシニフィアンに出遭い、次のシニフィアンに連鎖する瞬間に象徴界から抹消 されて消えてしまいます。これをラカンは主体のアファニシス(消失)と呼んでいます。(藤田博史講義「セミネール断章」『治療技法論』2012年1月講義より)



A
フランス語で grand Autre と書き
「大文字の他者」「大他者」と訳される。
そして、A=S2である。

 これは大文字の A 。これは オートル Autre です。あるいは<他者>。大文字の他者を表記するために、わたし はこのような括弧でくくる書き方を提唱しました。20数年前です。普通に書くと「大文字の他者」とか言いますね。 あるいは「大他者」とか言う人もいますけれども。(藤田博史講義「セミネール断章」『治療技法論』2012年1月講義より)



そして
Φ+A、あるいは、S+Sによって
象徴界が構成されていると考えることができる。



(つづく)


2016.3